大正ロマンの趣を感じられる喫茶店「椿屋珈琲」。1996年に銀座1号店をオープンして以来、珈琲をこよなく愛する多くのファンから支持を集め、現在は都内に40店舗以上を展開する人気ブランドへと成長した。そのこだわりは「脱日常」。1枚1枚柄の異なるステンドグラス、アール・ヌーボーの銀細工。時間の止まったアンティーク時計をあえて店内に置くのも、「時間を忘れて特別なひと時をゆっくり味わってほしい」という、お客様へのメッセージである。
そんな椿屋珈琲の中で長年、売上高・来店客数NO.1の実績を誇るのが、新宿茶寮だ。ピークタイムには行列が絶えないほどの人気店である新宿茶寮は、長年フロア拡大(増床)を夢見ていた。そして今回、とうとうその夢が現実のものとなった。2021年夏、「椿屋珈琲 新宿茶寮」の増床が決定。喫茶店として日本一の規模となる一大プロジェクトがスタートした。
今回のプロジェクトでは、既存の2Fフロアに加えて新たに3Fフロアが増床される。座席数は120席から220席となり、これまでの2倍近い規模の喫茶店へと生まれ変わることになる。喫茶店業態において、もともと規模の大きい店舗であったが、今回の増床によって日本一の規模を誇る喫茶店となった。
そんな会社の期待を背負う一大プロジェクトのプロジェクトリーダーに任命されたのが、新宿茶寮で店長を務める神辺である。神辺は、入社以来27年もの間、珈琲業態に携わり、各店で責任者を歴任してきたプロフェッショナルであり、椿屋珈琲一号店の創店メンバーの一人でもある。椿屋珈琲を知り尽くした神辺は、増床が決定した時の気持ちをこう語る。
「新宿茶寮の増床は前会長の時代からの念願だったんです。だから、増床できると聞いた時は、本当に嬉しかったですね。また、これまではどうしてもお客様をお待たせしてしまうことが多くありました。今回の増床によってより多くのお客様に椿屋珈琲にご来店いただくことができると思うと、とてもワクワクしますね。」
神辺は新宿茶寮の店長として通常業務をこなしつつ、プロジェクトリーダーとして営業本部メンバーと協力しながら増床プロジェクトを着実に進めていった。
そして、2022年1月、リニューアル工事がスタート。既存の2Fフロアを含め工事が行われ、約1ヶ月間の休業期間に入った。この休業期間になって神辺が取り組んだのは、スタッフの採用活動だ。
この1ヶ月の間に、約2倍になるフロアを回すためのオペレーション設計を考え、必要となる人材を確保しなければならない。当時を振り返り神辺はこう語る。
「新宿茶寮は工事で使えないので、周辺にある系列店に協力してもらい、面接を進めました。採用はスムーズに進行して、結果15名のスタッフを増員。短い期間だったので人を集められるか不安でしたが、いい人材と巡り合うことができて、グランドオープンがより楽しみになりましたね。」
「今回のプロジェクトで一番大変だったのは、スタッフの教育ですね。椿屋珈琲はサービスの質の高さも魅力であり、ブランドの価値をつくっています。そのためには実際に店舗で研修を受ける期間が必要不可欠なんです。そこで、他の系列店の店長たちにお願いして、スタッフの教育をサポートしてもらいました。」
さらに神辺は、系列店で研修を受けているスタッフたちのもとを日々回り、丁寧にフォローを行ったという。
「一番不安だったのは、グランドオープンまで一緒に働くスタッフ同士の顔合わせができないということ。椿屋珈琲の想いがちゃんと浸透しているか、何か分からないことはないか、スタッフ1人1人の声にしっかりと耳を傾けることで、オープンに向けてモチベーションを高められるように心がけました。」
スタッフの教育もオペレーション設計も順調に進むが、どうなるかはオープンを迎えてみないと分からない。期待と不安が入り混じった思いの中、神辺は一足先に既存の2Fフロアのリニューアルオープンを迎える。
4月の増床グランドオープンに先駆けて、3月24日にリニューアルオープンした2Fフロア。約1ヶ月もの休業は新宿茶寮としては初めてのこと。競争が激しい新宿エリアにおいて、お客様が今まで通り戻ってくるかどうかは分からない。不安な思いでこの日を迎えた神辺だが、すぐにその不安はなくなった。
「お客様から『リニューアルオープンおめでとう』『オープンするの待ってたよ』と嬉しい言葉をたくさんいただきました。こんなにも多くのお客様に愛されていたんだなと改めて自信につながりましたね。」
そして4月15日、待ちに待ったグランドオープンの日。店内は多くのお客様でにぎわい、日本一の喫茶店にふさわしい質の高いサービスと共に、穏やかな非日常の時間を楽しむ椿屋珈琲のあるべき姿がそこにはあった。これからの期待を込めて、神辺は語る。
「増床によって、これまで以上に多くのお客様に私たちのお店を知ってもらえるチャンスが増えました。これまで私が培ってきた経験・知識・技術すべてを使って、スタッフと一緒に名実ともに日本一の喫茶店をつくっていきたいと思います。」